2023.09.07
製造業や物流業などで普及が進む「IoT」。医療分野でのIoTは「IoMT」と呼ばれ、医療機関やヘルスケア業界での利活用に期待が高まっています。医療IoT(IoMT)の導入で、従来の医療の課題解決と、より適切で高度な医療の提供が実現すると見込まれるからです。
本記事では、医療IoT(IoMT)の基礎知識や導入メリット、活用事例などについて解説します。
目次
はじめに、医療IoT(IoMT)とはどのようなものなのか見ていきましょう。
そもそも「IoT」とは、「Internet of Things」の略で「モノのインターネット」を意味しています。「モノ」をインターネットと接続することで、私たちの暮らしや社会の仕組みを変革する可能性を秘めているのです。
例えば、テレビやエアコンなどの家電をインターネットに接続するIoT家電では、外出時にスマートフォンなどから遠隔操作で自宅の家電を操作することができます。また、物流業界では「スマートロジスティクス」と呼ばれるIoT活用により、在庫管理の効率化や配車管理の最適化などの取り組みが始まっています。
「IoT」の医療分野での活用が「IoMT(Internet of Medical Things)」であり、「医療IoT」とも呼ばれています。さまざまな医療機器やヘルスケア機器、医療関連ITシステムを、ネットワークを介してつなぐという概念です。
例えば、ウェアラブル端末やベッドなどの医療機器にWi-FiやBluetoothを搭載すると、患者の医療情報をリアルタイムに電子カルテなどのシステムと共有できます。あらゆる医療デバイスをIoMT化することで、医療データを活用して新たな治療法や新薬などの研究開発に役立てることも可能です。
現在、医療IoT(IoMT)の中でも、特に注目を集めているのが「遠隔診療」や「ウェアラブル端末」です。それぞれどのような取り組みなのか解説します。
患者が医師と対面することなくオンラインで診療を受けられる遠隔診療は、2015年に実質的に解禁されましたが、「初診は原則、対面診療であること」などの制限がありました。
しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響に鑑み、2020年、厚生労働省は「時限的・特例的」に初診のオンライン診療を解禁しました。その後、2022年1月の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」改定により、正式に解禁されることになりました。
このような社会背景から、遠隔診療を技術的に実現するための先端技術として、医療IoT(IoMT)が注目されるようになっています。
ウェアラブル端末は、手首や腕、頭などに装着して使用できる小型のコンピューターデバイスのことを指します。一般に普及している代表的なものとして、腕時計型のスマートウォッチが挙げられます。歩数や消費カロリー、心拍数などのヘルスケア情報を記録して、健康管理に役立てられています。
このウェアラブル端末を患者の腕に装着すれば、呼吸・心電図・体温などのバイタルサインを計測して、医療機器などへデータを自動転送することが可能です。患者の状態をリアルタイムで把握できるため、迅速・適切な医療の提供ができます。また、蓄積した情報は個人情報を保護した上で、ビッグデータとして分析・活用できるため、治療技術の発展や新薬開発などに役立つものとして注目されています。
医療IoT(IoMT)が導入・普及することで、医療業界や医療機関にはさまざまなメリットがもたらされると見込まれています。ここからは、期待されているメリットについて以下の観点で解説します。
医療サービスの品質向上は、医療IoT(IoMT)の大きなメリットの一つです。IoMTデバイスは、患者のバイタルサインを緻密に測定できるため、従来の診療と比べてはるかに短時間で多くの情報が得られます。そのため、患者の症状の背後にある情報から治療計画を作成するなど、適切な医療サービスを提供しやすくなります。
遠隔診療・リモート診療は、先述したように医療IoT(IoMT)の重要な要素です。IoMTデバイスはインターネットに接続されているため、患者の自宅や外出先など、どこからでも医療データを取得して医療従事者に送信できます。過疎地・災害地など医療の提供が難しい場所や、寝たきりや疾患などで医療機関を受診できない患者にも対応できます。
医療IoT(IoMT)は、医療機関のコスト削減と収益拡大にも効果的です。例えば、IoMT機器の導入で患者のモニタリング・見守りを自動化すれば、それだけ医療従事者の負担を減らせるため、労働時間とコストの削減につながります。
また、近年では入院が短いほうが、診療報酬が高くなる診療報酬体系になっています。そのため、患者にIoMTデバイスを使用してもらう前提で退院支援を行い、異常発生時にはすぐに医療機関へ戻れるようなルートを確保すれば、コストとのバランスを考慮した治療計画の実現にもつながるでしょう。
先述したウェアラブル端末の活用により、心拍数など診療に必要な患者のデータを収集し、患者の治療や健康管理に活用できます。こうした「データに基づく診療」により、判断・治療・投薬のミスといった医療過誤のリスクも低減できます。特に、薬の飲み合わせや処方量については、医師の判断だけに頼るのではなく、ビッグデータやAIも活用することで、より正確な医療の提供が可能です。
医療IoT(IoMT)により、診療データや検査データの共有と活用が容易になります。紙媒体によるデータ管理では、複数の医師や医療機関同士での共有が困難でした。しかし、すべてをデジタル化してネットワークと接続することで、関係各所との連携がスムーズに行えます。
また、医療データの分析、見える化、ビッグデータの活用により、医療分野の発展につながるような新たな知見も得られるでしょう。医療データ分析の概要や活用メリットについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
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さまざまな魅力がある医療IoT(IoMT)ですが、以下のような課題もあります。
医療IoT(IoMT)で扱うのは、患者の極めてプライベートな情報です。患者の疾患や生活状況など秘匿性の高い情報や、生命に直接関わる情報が含まれているため、いかにデータを安全に管理するかが重要です。
データを管理するシステムに対して、外部からの不正アクセス・ハッキングなどによる情報漏えい・数値の改ざんなどが行われると、深刻な医療事故にもつながりかねません。また、内部の職員の不用意なデータ管理により情報が流出する恐れもあります。
そのため、十分な安全性を備えたシステム構築・運用はもちろん、セキュリティ対策の徹底や職員のITリテラシー教育など、データを保護するための体制構築が不可欠です。
医療データは患者にとって機密情報であるため、「個人情報保護」の観点から、データ共有や活用に抵抗がある患者も少なくありません。例えば、複数の医師や医療機関で自身の治療・投薬・病歴などの情報がやりとりされることに、不安を感じるなどです。そのため、医療データの取り扱いについて丁寧に説明を行い、患者の同意を得るようにすることが大切です。
医療IoT(IoMT)の技術の一つに、離れた場所から操作できる「遠隔医療ロボット」があります。患者の生活に密着した丁寧な医療サービスには、広く活用されることが期待されています。しかし、遠隔医療ロボットは、医師の対応技術や法制度など未整備な部分が多いため、現状では外科的な治療への適用は難しいのが現状です。
このように、技術的には実現可能な医療IoT(IoMT)であっても、さまざまな現状の制約から、すぐに導入するのは時期尚早という領域もあります。
これまでの解説で触れてきたものもありますが、最後に、医療IoT(IoMT)導入の活用例をまとめてご紹介します。
訪問医療・訪問介護などの現場で使用される医療機器にも、IoMT化が進んでいます。そのため、例えば、超音波診断装置で測定した検査データは、Wi-Fiなどでリアルタイムに医療機関と共有できます。訪問医療や訪問介護の課題点であった情報共有のタイムラグが解消され、適切でスピーディーな医療の提供が可能となります。
IoMTデバイスによるモニタリングの導入で、患者のモニタリングや見守りを効率化する取り組みが加速しています。例えば、患者の手首に装着するウェアラブル端末や介護現場のベッドには、患者のバイタルをリアルタイムで測定し、異常発生時にスタッフステーションに通知できるものが増えています。
こうしたIoMTデバイスを活用することで、患者へのケアの品質が向上することはもちろん、スタッフの身体的・心理的な負担の軽減も可能です。
過去の診断情報をデータベース化したり、AIによる画像診断を活用したりして、医師の診断をサポートするシステムも増えています。AIは、画像やデータの検出を極めて短時間かつ正確に行えるため、医師の業務負荷の軽減や診断ミスの予防にも役立ちます。こうしたビッグデータやAIは、がんの診断にも適用可能です。
過疎地への医療の提供や手術後のケア、介護分野などへの遠隔診療(オンライン診療)の応用が広がっています。ウェアラブル端末を活用すれば、患者が自宅にいても健康状態をモニタリングし、異常発生時に検知可能です。
また、5G(高速・大容量のモバイル通信システム)技術の発展により、映像や画像を活用した高度な診療が遠隔で行えるようになることが、総務省のユースケースによって示されています。
医療IoT(IoMT)の実現にあたっては、そもそも院内システムのデジタル化が欠かせません。そこで現在、急速に普及しているのが「医療システム」です。電子カルテシステムやWeb予約システムなどの導入は、医療従事者の業務負荷を減らすことはもちろん、患者にとって利便性の高い医療サービスを構築するためにも役立ちます。
医療システムの導入は、医療IoT(IoMT)の第一歩です。詳しくは以下の記事で解説していますのでご覧ください。
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新時代の医療に対応するためには、院内業務のデジタル化が欠かせません。その先にある医療IoT(IoMT)には、革新的な医療サービスの品質向上やコスト削減など多大なメリットがあります。医療IoT(IoMT)の第一歩として、まずは院内業務のデジタル化を推進することが大切です。
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