2023.03.17

医療データ分析とは?重要性からメリット、課題、導入事例まで解説

医療データ分析とは?重要性からメリット、課題、導入事例まで解説

医療業務の効率と精度を高めるための「医療データ分析」が注目されています。これまでも医療データの活用はさまざまなシーンで行われてきましたが、近年、AI(人工知能)の登場により、飛躍的に分析効率が向上し、利用価値が高まっているのです。

医療業界や国民の健康管理のあり方に多大なメリットをもたらすと考えられている医療データ分析ですが、一方で、人的リソースやセキュリティ確保などの面で課題もあります。

本記事では、医療データ分析の概要や活用メリット、課題点について導入事例と併せて解説します。

医療データ分析とは

「医療データ分析」とは、電子カルテ、レセプト、CTスキャンなどの医療関連システムで取得した医療情報を、分析・解析して活かすことを指します。最新のデータ分析手法や、データ分析を専門に取り扱う専門職について見ていきましょう。

AIの登場で飛躍的に向上した医療データ分析

医療データ分析には、膨大な情報の収集と解析が必要なため、従来の手法では容易ではありませんでした。しかし、現在では「AI」と「ディープラーニング(機械学習)」技術を活用し、医療データ分析の速度と正確さが飛躍的に向上しつつあります。ディープラーニングとは、簡単に言うと、AIが自動的に学習を進め、大量のデータから特徴やパターンを抽出する技術のことです。

AIによる医療データ分析は、画像診断の自動化による疾患の発見や、ヒトゲノム解析による研究・治療薬開発など、先進的な医療技術に活用されています。患者により良い医療を提供できるようにするために、医療データ分析の重要性が高まっています。

医療データ分析を行うメディカルデータサイエンティストの役割

医療データ分析の担当者を「メディカルデータサイエンティスト」と呼びます。メディカルデータサイエンティストの役割は、症例ごとに蓄積されたデータを分析して新たな治療法を確立することや、統計データを分析して発症傾向や共通点などを予測することです。

つまり、医療システムで収集したさまざまなデータを活用し、医療技術を発展させる「道しるべ」を探し出すことが、メディカルデータサイエンティストの役割です。現在の医療が抱える課題を解決できれば、患者の幸福度を向上させることにもつながります。

メディカルデータサイエンティストに資格は必要?

現在のところ、メディカルデータサイエンティストになるために必須の資格はありませんが、データ分析や医療についての高度な知識とスキルが求められます。

関連する資格として「ヘルスデータサイエンティスト」や「統計検定」などがあるほか、「R(アール)」や「Python(パイソン)」と呼ばれるデータ解析やAI開発に適したプログラミングスキルが求められるのが一般的です。

医療データ分析が重要な理由

続いては、医療データ分析の重要性が高まっている理由について見ていきましょう。主に、以下の4つの理由が考えられます。

  • 病気の早期発見ができる
  • 客観的な判断ができる
  • データ量が多いほど正確な診断ができる
  • 医療コストを削減できる

病気の早期発見ができる

医療データ分析により、病気の早期発見につながります。その典型が「画像診断」です。人間の肉眼では、どうしても小さな病変を見逃してしまうことがあります。一方、AIは大量の統計情報をもとに極めて細かな判断ができるため、人間よりも正確に画像を判断可能です。患者の疾患を早期発見しやすくなり、迅速な治療と回復に役立つでしょう。

客観的な判断ができる

人間の場合、それぞれ能力やスキルに差があるうえに、身体的・精神的な要因でパフォーマンスも変わります。そのため、正確な判断ができることもあれば、見逃しやエラーが生じるリスクもあるでしょう。

一方、AIはコンピュータなので、常に一定のパフォーマンスを保ち、客観的で正確な判断ができます。さらに、時間と場所に関係なく、常に同じ精度で診断・判断ができるため、医療の「属人性」の解消につながります。全国各地で医療サービスを等しく提供できる体制の構築も可能で、医療の地域格差を縮めることも可能です。

データ量が多いほど正確な診断ができる

AIによるデータ分析では、電子カルテやCTスキャンなどの医療データの母数が増えれば増えるほど、正確な診断ができるようになります。つまり、医療データ分析の導入が早ければ、それだけ患者に適切な医療を提供しやすくなるということです。

医療コストを削減できる

統計学的なデータ分析が向上し、AI診断の精度が高くなるにつれて、一定領域について人間が情報収集・診断する必要がなくなり、医師はより専門的な領域や倫理的な判断が求められる対応に専念できます。

また、データ分析で得られた結果を活用して、医師や看護師の業務負担を減らせるため、全体的な医療コストの削減につながるでしょう。このように、医療データ分析の活用により、診断の正確性向上と医療コスト削減を両立できます。

医療データ分析を行う際に扱うデータの種類

医療データ分析で取り扱うデータの種類には、例えば、以下の5つのようなものがあります。

  • 電子カルテデータ
  • レセプトデータ
  • DPCデータ
  • 健康診断データ
  • PROデータ

電子カルテデータ

電子カルテからは、「問診データ」「検査・診断データ」「処方データ」などの医療情報が得られます。これらのデータは、医師の臨床研究や医療機関の経営分析などに活用できます。医薬品の治験を行うときに、最適な治験者をリクルートするためにも役立つでしょう。さらに、AIを活用した画像診断の精度向上や、先進的な治療法の発見など、あらゆる場面での活用が見込まれる情報です。

レセプトデータ

診療報酬などの会計管理のために医療機関が発行する「レセプトデータ(診療報酬明細書)」もデータ分析に活用されます。レセプトデータに記載される「入院」「外来」「歯科」「調剤」といった医療行為や医薬品などの情報により、医療機関の経営分析や健康保険加入者の疾病・費用構造を分析できます。

また、患者が病気を認知してから医療機関で診断・治療に至るプロセス「ペイシェントジャーニー」も分析できるため、医療機関の全体的な経営改善にも役立つでしょう。

DPCデータ

DPC(診療群分類包括評価)は、入院患者の病名や診療内容に応じて定められた診療報酬点数に基づいて、1日あたりの入院診療費を計算する方式です。DPCを扱えるのは、厚生労働省が示す基準を満たす必要があり、比較的規模の大きな病院を中心に導入されています。

そのため、通常のレセプトとは異なり、大病院における入院・手術の費用や研究に特化したデータ、経営分析や重症疾患における臨床研究に活用できます。

健康診断データ

健康診断データは、定期健診・特定健診・がん検診など、さまざまな健康診断から得られるデータです。健康診断データを活用すると、患者の疾病リスクの分析や重症化予防ができるうえに、自治体・企業における疾患の傾向も分析できます。患者により良い医療を提供し、患者満足度を向上させるために役立つでしょう。

PROデータ

PRO(患者報告アウトカム)は、痛みや不安など患者の身体的・精神的な症状について、患者に直接ヒアリングすることで得られる主観的なデータです。これまで、治験の効果は数値による客観的な指標で評価されていましたが、PROの活用で被験者の主観的な症状も反映できます。

PROで得られるデータは、患者の満足度も含めた治験の効果や、ワクチン接種後のモニタリングにも役立ちます。身体的・精神的な症状は個人差が大きいため、データの母数が多いほどデータの正確性も高まるでしょう。

医療データ分析の課題

その活用に大きな可能性がある医療データ分析ですが、一方で、主に以下の3つのような課題もあります。

  • 入力データの精緻化
  • 人的リソース
  • セキュリティの確保

入力データの精緻化

医療データ分析の精度を高めるためには、入力データの精緻化が欠かせません。現在、医療データ分析で特に重要視されているのが、電子カルテのデータです。しかし、電子カルテに不正確・不明確な点があれば、正確な医療データ分析ができません。

例えば、カルテの書き方は医師によって異なるため、AIが理解できるように「標準化」する必要があります。その際に、表記ミスやブレがあると、標準化に大きな手間とコストがかかります。スムーズなデータ活用のために、電子カルテの入力段階での標準化・精緻化を目指すことが重要です。

人的リソース

医療データ分析には、高度な知識・技術を有する人材が欠かせません。統計分析やプログラミングに関する知識とともに、医療の高度な専門知識も不可欠です。最先端の新しい職種のため、専門教育機関などでの人材育成が急務となっています。

現在、医療分野に限らずあらゆる産業でAI活用やビッグデータ分析の需要が高まる中で、一部の大学でデータサイエンス育成の学部が開設されています。医療分野では、文部科学省などが中心となり設立された、医療・創薬データサイエンスコンソーシアムが、医療・創薬・ヘルスケア分野のデータサイエンス人材の育成に取り組んでいるところです。

セキュリティの確保

医療データ分析で大きな課題となっているのが、セキュリティ強度の確保です。電子カルテをはじめとして、医療データには極めてプライベートな内容が含まれているため、決して情報漏洩・改ざんが起きてはいけません。

そのため、データ収集時・保管時・共有時など、あらゆるタイミングでトラブルが起きないような、高度なセキュリティ体制を構築する必要があります。また、情報を取り扱うあらゆる関係者に、情報リテラシーやセキュリティ意識を高めるための教育・研修が欠かせないでしょう。

医療データ分析の活用事例

医療データ分析の代表的な活用事例として、以下の2つの事例を紹介します。

  • EMR(電子診療情報)の導入
  • 救急患者の入院期間の短縮化

EMR(電子診療情報)の導入

フロリダの病院では、EMR(電子診療情報)の導入で調剤業務の効率化に成功しました。この病院では、紙媒体で薬剤投与の記録を管理していたため、人的ミスが多発していました。医療機関におけるミスは、人命に関わる重大な問題です。

そこでEMRを導入したところ、医療スタッフが行った処方データが薬局側にリアルタイムで通知されるようになったため、調剤業務の効率と精度が格段に高まりました。このように、医療データ分析の活用は、最適な医療の提供と人命の保護に役立ちます。

救急患者の入院期間の短縮化

ロサンゼルスとボストンの病院では、患者の心拍数や呼吸のモニタリングシステムを導入した結果、患者の容態をリアルタイムで把握できるようになりました。患者の治療時は、患者の変化にいち早く気づくことが、重症化予防のために欠かせません。

システムを導入したところ、入院患者の平均入院期間を約9%削減し、ICU(集中治療室)の患者の平均治療期間を半分程度に短縮できました。患者の重症化を予防できれば、後遺症の発生リスクも低減できます。このように、医療データ分析の活用により、患者のQOL(生活の質)を高めることも可能です。

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医療データ分析は、疾患の早期発見や診断精度の向上のために役立ちます。電子カルテやレセプトなど、大量のデータを分析することでAIが適切な判断を迅速に行い、患者への最適な医療提供と医療業務の効率化が実現できます。

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