2023.09.07
2024年4月より、医業に従事する医師を対象とした「医師の働き方改革」が始まります。主に、診療時間外や休日の勤務など、長時間労働が常態化している医師の労働環境を改善するためのものです。
これを受けて医療機関では、医師の働き方改革を実現するための対策が欠かせません。本記事では、医師の働き方改革が推進される背景や概要、医療機関が意識すべき業務効率化などの対応策について分かりやすく解説します。
目次
2024年4月に施行される「医師の働き方改革」により、医師の労働時間の管理が厳格化されます。医師の働き方改革は、適切な医療を効率的に提供するために、医師の心身の健康を確保するためのものです。
一般企業における「働き方改革」は、2019年4月施行の「働き方改革関連法」に基づき進められています。医師については業務の特殊性を考慮して猶予期間が設けられ、2024年4月から施行されることになりました。
■参考
「働き方改革」の実現に向けて |厚生労働省
医師の働き方改革の制度解説ページ|いきいき働く医療機関サポートWeb(いきサポ)
日本の医療体制は、病院の常勤医師の約4割が年間960時間以上の残業を行うなど、医師の長時間労働によって支えられてきたという背景があります。しかしこのままでは、医療ニーズの変化や高度化、生産年齢人口の減少により、医師の負担がさらに増すと考えられています。
「医師の働き方改革」が推進される背景として、厚生労働省が2021年に発表したワーキンググループ資料「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について」では、以下の3点を挙げています。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
■参考
第三十一回 地域医療構想に関するワーキンググループ(厚生労働省)
病院の常勤医師のうち、約4割が960時間以上、約1割が1,860時間以上の時間外・休日労働を行っています。救急、産婦人科、外科、若手医師は特に長時間労働の傾向が強く、身体的・精神的に厳しい労働環境だといえます。
医療機関の中には「36協定(サブロク協定)が締結されていない」「客観的な業務時間の管理が行われていない」など、労務管理が不十分な医療機関があります。こうした状況下では、医師・医療従事者が長時間労働を強いられるケースが多いため、問題視されてきました。
医師に業務負荷が集中していることも、医師の働き方改革が推進される理由の一つです。例えば、患者への病状説明、血圧測定、記録作成など、さまざまな業務を医師が担当しています。医師のリソースが圧迫されることで、重要な業務に集中できないケースも珍しくありません。
先ほど紹介したワーキンググループの資料では、医師の働き方改革が目指す姿として、以下の3点を挙げています。
長時間労働による疲労蓄積は、医療過誤の原因になりかねません。医師が健康的に働ける環境の整備は、患者に提供される医療の品質向上につながり、持続可能な医療体制の構築が可能となります。
今回の「医師の働き方改革」の対象者は、医師資格を保有しているすべての医師というわけではありません。対象となる医師・対象外の医師は以下のようになります。
<対象となる医師>
<対象外の医師>
ただし、対象外の医師についても、一般業種と同じく2019年4月(中小企業は2020年4月)に始まった「働き方改革関連法」による基準が適用されます。
医師以外も含めた医療従事者の働き方改革については、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
■関連記事
医療現場・医療従事者(医師・看護師・薬剤師・事務職員など)の働き方改革とは?ポイント解説
「医師の働き方改革」の重要ポイントとして、以下の3つが挙げられます。
出典:医師の働き方改革について|令和3年度 第1回医療政策研修会及び地域医療構想アドバイザー会議(厚生労働省)
2024年4月1日から、対象となる医師に対して、時間外・休日労働の上限規制が適用されます。具体的には、一般労働者と同程度の「原則年間960時間が上限」となります。
しかし、先述したように時間外・休日労働が年間960時間を超える医療機関が多い中、この上限規制を適用すると医療現場の機能不全を招きかねません。そこで厚生労働省は、やむを得ず年間960時間を超える部分についても考慮した「ABC水準」を設けて、上限規制を適用することとしています。
<上限規制水準と医療機関の区分>
水準 | 医療機関の区分 | 時間外・休日労働の年間上限時間 |
---|---|---|
A | 一般労働者と同程度 | 960時間 |
連携B | 医師を派遣する病院 | 1,860時間 |
B | 救急医療などを提供 | 1,860時間 |
C-1 | 臨床・専門研修を行う | 1,860時間 |
C-2 | 高度技能の修得研修 | 1,860時間 |
救急医療や専門治療を提供する場合は、「緊急性が高い」「代わりの医師がいない」などの理由から、上限規制への対応が難しいことがあります。そこで「B」と「C」の区分に該当する「特定労務管理対象機関」については、年間1,860時間が上限となりました。
なお、特定労務管理対象機関になるためには、「医師労働時間短縮計画」を提出し、都道府県からの認可を受ける必要があります。短縮計画については、厚生労働省の「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン」が参考になります。
■参考
医師労働時間短縮計画作成ガイドライン及び医療機関の医師の労働時間短縮の取組に関するガイドライン(評価項目と評価基準)の公表について[厚生労働省]
時間外・休日労働の上限規制とセットで「医師の健康確保措置」が義務化されました。医師の健康を確実に確保するために「面接指導」と「休息確保」の2つが義務付けられます。
面接指導は、時間外労働時間が月100時間以上になると見込まれる医師全員に対して、心身の健康の維持をサポートするためのものです。必要に応じて、労働時間の短縮や宿直回数の削減などの措置も講じます。
また、医師の健康確保のための規制として「追加的健康確保措置」を定め、以下のような休息確保規定も設けられました。
この「追加的健康確保措置」は、A水準では努力義務、B水準・C水準では義務となっています。
■参考
追加的健康確保措置とは | 日本産婦人科医会|産婦人科医の働き方改革
タスク・シフト/シェアは、特定の人に集中している業務の一部を移管したり、他のスタッフと共同で行うようにしたりすることです。医療現場においては、医師以外のスタッフで対応可能な業務について、他職種と分業体制を築くことを指します。
厚生労働省の調査結果では、医師の労働時間が長くなる理由として、「患者(家族)への説明対応のため」や「診断書やカルテ等の書類作成のため」など、医療行為の提供以外の業務も上位に位置しています。
■参考
「平成29年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」(厚生労働省)
医師の負担軽減を図るためのタスク・シフト/シェアでは、関連法の改正を実施して、例えば「診療放射線技師」「臨床検査技師」「臨床工学技士」「救命救急士」の対応可能な業務範囲を拡大し、指定された検査や医療措置を行えるようになりました。
「医師の働き方改革」について解説してきましたが、医療機関は具体的にどのような対応を取ればいいのでしょうか。そこで、厚生労働省が公表している「医師の働き方改革に関する好事例」を参考に、以下の取り組みについてご紹介します。
■参考
医師の働き方改革に関する好事例について(厚生労働省)
勤務環境改善に向けた好事例集(厚生労働省)
「変形労働時間制」は、規定の労働時間を超えない範囲内で、労働時間を柔軟に配分する制度を指します。
医療現場では外来や手術など、医師の対応が求められるタイミングがある一方で、対応すべき業務が少ないときもあるものです。そのため、労働時間を柔軟に配分できる変形労働時間制を導入することで、医師のリソースを必要な場面に集中できるようになります。
例えば、1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、労働時間の限度は1日10時間・1週間52時間となり、1年間の労働日数の限度は280日となります。厚生労働省の紹介事例では、変形労働時間制の導入により、これまでと同じ業務量の場合でも、28時間の時間外労働時間を8時間に削減することに成功しました。
「医師の働き方改革」に対応するにあたり、「何が労働時間にあたるか」を明確化することも重要です。特に、医師は高度な専門職のため、日々、各種診療ガイドラインの勉強をはじめ、上司などの診療・手術の見学や手伝いなどの研鑽を行っています。
勤務場所において所定労働時間の中で研鑽を行う場合は当然、労働時間に該当しますが、医療機関では、個々の状況に応じて、労働時間の対象となる業務上必須の研鑽かを判断する必要があります。今回の「医師の働き方改革」では、「自己研鑽の労働時間該当性の整理」として、各医療機関の考え方や実情に沿ったルールを作成・周知徹底して、労働時間に対する共通認識を持つことが大切とされています。
厚生労働省では、自己研鑽と労働時間について整理する際の考え方を資料にまとめていますので、詳しくは以下の資料をご覧ください。
■参考
医師の研鑽と労働時間に関する考え方について(第12回 医師の働き方改革に関する検討会)
医師に限らず、働き方改革を推進するためには、適切な労働時間の管理が必要となります。これは単にタイムカードを打刻するといった出退勤管理を行うだけでなく、誰が見ても労働時間の実態を把握できる「客観的かつ適正」な方法で行う必要があります。
そこで、各医療機関で導入が進められているのが「勤怠管理システム」です。勤怠記録をデータベースで管理できるだけでなく、時間外労働の事前申請・承認・把握などの機能を備えているのが一般的で、労務管理・運用に役立ちます。個々の医師の勤怠状況をデジタル化できるため、労働時間の可視化や長時間労働へのアラート、不適切な勤務実態の把握がスムーズに行えます。
ただし、医師の勤務体系は特殊なため、一般業種向けの勤怠管理システムでは対応できないことがあります。複雑なシフトや宿日直(兼業先の宿日直も発生するケースあり)、変形労働時間制、突発的な勤務などに対応できる勤怠管理システムを選ぶことがポイントです。
医師の労働時間が長くなる主な要因として、さまざまな業務が医師に集中している実態があります。「医師の働き方改革」をきっかけに法改正も行われ、指定の職種が対応できる業務範囲も変更されます。こうした動きと合わせて、医師の負担になっている業務や、院内業務で効率化できる業務を洗い出して効率化を図ることが必要です。
そこで、医療現場の業務を効率化するためのITシステムを導入すると業務効率化が実現します。また、デジタル化により業務が可視化されると、タスク・シフト/シェアの際に担当者間での情報共有がスムーズに図られ、業務範囲の明確化にも役立ちます。
ITシステムにはさまざまな種類、対応領域があり、例えば以下のようなものです。
<情報共有のためのシステム>
<院内業務効率化・データ連携可能なシステム>
■関連記事
病院経営の課題はシステム導入で改善できる!事例やおすすめシステムを紹介
2024年4月から「医師の働き方改革」が始まり、医師の長時間労働の是正が求められます。医療機関では、時間外労働の上限規制や健康確保措置などを実現するために、準備を整えておく必要があります。何よりも大切なことは、医療現場の全体の業務を効率化して、適正な労務管理を行うことでしょう。
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