2024.01.22

外国人患者受け入れ時の希少言語通訳サービスとは?【医療機関向け】

外国人患者受け入れ時の希少言語通訳サービスとは?【医療機関向け】

近年、インバウンド需要の増加により、訪日外国人が急激に増え続けています。そのため、医療機関でも、さまざまな国や地域から訪れた外国人患者を受け入れるケースも増えています。

ただ、訪日外国人が必ずしも英語を話せるとは限りません。言語の違いにより意思疎通がスムーズにいかないケースでは、対応に苦労することもあるでしょう。

そこで本記事では、医療機関が外国人患者を受け入れる際に役立つ「外国人患者受入れ医療機関対応支援事業」について解説します。これを利用することで、外国人患者との意思疎通の円滑化が期待できます。

資料から読み解く外国人患者の受け入れ状況

現在の国内における外国人患者の受け入れについて、厚生労働省の発表資料「令和元年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果(速報版)について 」をもとに、以下の4つのポイントからご紹介します。

  • 厚生労働省が「マニュアル」を公開している
  • 半数の医療機関で外国人患者の受け入れ実績がある
  • 医療機関向けマニュアルの認知度は6割前後
  • 外国人患者に対する体制整備状況は進んでいない

厚生労働省が「マニュアル」を公開している

外国人患者は、さまざまな国と地域から、それぞれの目的や事情を抱えて日本を訪れています。言語や生活習慣、思想、宗教、資本状況などが異なるため、受け入れ時に何らかの不明点やトラブルが生じることが珍しくありません。

厚生労働省では「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル(第4.0版) 」を公開しています。このマニュアルでは、外国人患者に対する円滑な受け入れ体制を構築するためのポイントなどを紹介しています。海外旅行保険の種類と保障内容、診療料金の設定や支払方法についても詳細に解説されており、実践に役立つでしょう。

また、場面ごとに対応する「やさしい日本語での表現方法」や注意点などは、医療機関全体で共有しておくと安心です。

参考:「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」について

半数の医療機関で外国人患者の受け入れ実績がある


引用:令和元年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果(速報版)について(厚生労働省)

厚生労働省の調査によると、全国の医療機関のうち、53%の医療機関で「外国人患者の受け入れ実績」があることが分かりました。都道府県の選出する「拠点的な医療機関」では、より多く、82.5%の受け入れ実績があります。

なお、調査対象となった2019年10月における外国人患者受け入れ数は平均29.4人です。10人以下と回答した医療機関がもっとも多く、全体の3割弱を占めていました。

医療機関向けマニュアルの認知度は6割前後


引用:令和元年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果(速報版)について(厚生労働省)

前述した「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル(第4.0版) 」については、全体の6割が「知っている」と回答しました。

ただし、そのうち内容まで確認した医療機関は7割に届きません。これは、医療機関全体で見ると4割程度となり、半数以上の医療機関がマニュアルを確認していないことが分かりました。外国人患者の受け入れ体制が不完全な医療機関に向けた周知の徹底が急がれます。

外国人患者に対する体制整備状況は進んでいない


引用:令和元年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査結果(速報版)について(厚生労働省)

「外国人患者に対する体制整備状況」を尋ねたアンケートでは、半数近くの医療機関が、自院における外国人患者の受診状況を把握していないことも分かりました。

また、「現状および課題の抽出」を未実施の医療機関は約9割、「外国人患者受け入れ体制整備方針」を未整備の医療機関は9割以上と、不本意な実態も明らかになっています。さらに、病院機能別に見たところ、拠点的な医療機関であっても7割が「現状および課題の抽出」を実施しておらず、8割が「受け入れ体制整備方針」の整備を行っていませんでした。

なお、「未実施・未整備」と答えた医療機関のうち、6割から7割が前項の「マニュアル確認状況」でも未確認と回答しています。

このように、外国人患者の受け入れ体制の整備は、まだまだ発展途上にあるといえるでしょう。

訪日外国人患者の医療機関対応フロー

医療機関での訪日外国人患者の受け入れの際は、事前に各医療機関で策定した対応マニュアルに沿って対応する必要があります。

参考までに基本的な対応の流れをフローチャートで示すと、次のイメージ図のようになります。

<訪日外国人患者対応フローイメージ図>


参考:外国人患者対応フローチャート 東京都保健医療局

厚生労働省が取り組む「外国人患者受入れ医療機関対応支援事業」とは?

厚生労働省は、医療機関における外国人患者の受け入れをサポートするために、以下の2つの委託事業を展開しています。

  • 希少言語に対応した遠隔通訳サービス
  • 夜間・休日ワンストップ窓口

「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」は民間サービスが少なく通訳者の確保が困難な希少言語にも対応できる遠隔通訳サービス、「夜間・休日ワンストップ窓口」は外国人患者に関する疑問やトラブルの相談窓口です。

それぞれどのようなサービスなのか詳しく解説します。

「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」とは?

希少言語に対応した遠隔通訳サービスについて、以下の3つのポイントから解説します。

  • 事業の概要について
  • サービス利用登録の手順・ステップ
  • 不明点があるときの問い合わせ先

事業の概要について

外国人居住者や旅行者が増えるなか、外国人患者が安心して医療を受診できる体制の整備が求められてきました。医療通訳者を医療機関に配置するためのサービスはすでにありますが、使用人口が少ない「希少言語」については対応が難しいことも珍しくありません。

そこで厚生労働省では、外国人患者の受け入れ環境の拡充を図るため、電話による「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」を開始しました。本サービスの概要は以下のとおりです。

サービス内容 来院した外国人患者との電話通訳サービス
(医療機関の交換台などが3者間電話に対応している場合は、3者間通訳サービスも利用可能)
対象となる医療機関 後述する方法でサービスの利用登録をした全国の医療機関
対応可能言語 タイ語、マレー・インドネシア語、タミル語、ベトナム語、フランス語、ヒンディー語、イタリア語、ロシア語、ネパール語、アラビア語、タガログ語、クメール語、ドイツ語、ミャンマー語、ベンガル語、モンゴル語、ウクライナ語
利用料金 最初の10分間は1,500円で、それ以降は5分あたり500円
(通話料は利用者負担)

参考:厚生労働省委託事業「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」のご案内|厚生労働省

サービス利用登録の手順・ステップ


引用:電話通訳サービスのご案内(厚生労働省)

厚生労働省の「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」を利用するためには、事前登録が必要です。「登録申込書」に必要事項を記入し、メールもしくはFAXで送付して申し込みます。

上記の画像のメールアドレス・FAX番号は変更される可能性があるため、最新情報については公式サイトでご確認ください。

■公式サイト
厚生労働省委託事業「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」のご案内 | ニュース | 株式会社BRIDGE MULTILINGUAL SOLUTIONS

不明点があるときの問い合わせ先


引用:電話通訳サービスのご案内(厚生労働省)

希少言語に対応した遠隔通訳サービスに関する不明点がある場合は、以下に問い合わせることで必要な情報が得られるでしょう。

上記の画像の窓口・問い合わせ先については変更される可能性があるため、最新情報については公式サイトでご確認ください。

■公式サイト
厚生労働省委託事業「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」のご案内 | ニュース | 株式会社BRIDGE MULTILINGUAL SOLUTIONS

「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」の利用手順

厚生労働省の「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」は、以下の手順で利用できます。

  1. 外国人患者が来院したら、「言語指さし表」を提示する
  2. 医療機関の担当者が通訳サービスの専用番号に電話をかける
  3. 患者に受話器を渡して用件を伝えてもらう
  4. やり取りを続けながら対応や処置内容を決める

1.外国人患者が来院したら、「言語指さし表」を提示する

外国人患者がどの言語を話すか確認するために、サービス登録後に送付される「言語指さし表」を患者に見せて、言語を指定してもらいます。もしも言語の特定ができなった場合は通訳者が判断してくれますので、次のステップに進みましょう。

2.医療機関の担当者が通訳サービスの専用番号に電話をかける

サービス登録後に通知される電話番号に医療機関の担当者が電話をかけると、通訳サービスに接続できます。「医療機関名」「担当者名」「通訳言語」を伝えると、通訳サービスの利用が始まります。

3.患者に受話器を渡して用件を伝えてもらう

通訳サービスが始まったら、患者に受話器を渡します。患者が用件を話し終えたら、医療機関担当者が受話器を受け取り、通訳者に内容を伝えてもらいます。さらに、その内容に対する回答を伝えてから患者に受話器を渡すと、回答が通訳されて患者に伝わるという流れです。

4.やり取りを続けながら対応や処置内容を決める

医療機関担当者・外国人患者・通訳者間でのやり取りを続けて、必要な医療行為や処置の内容を決定します。スピーカーフォンによるハンズフリー通話や端末を2台用いた3者通話を利用すると、よりスムーズに進むでしょう。

「夜間・休日ワンストップ窓口」とは?

引用:医療機関における外国人対応に資する夜間・休日対応ワンストップ窓口について【医療機関様向け】 | 海外での危機管理や緊急医療対応を支援【EAJ】

厚生労働省は「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」とあわせて、外国人患者に関する疑問やトラブルの相談ができる、「夜間・休日ワンストップ窓口」も提供しています。

ワンストップ窓口では、以下のような相談が可能です。

  • 医療機関を探してほしい
  • 支払いについて事前確認したい
  • 死亡案件や搬送を伴う案件について詳しく知りたい
  • 来院時に行うべき状況把握や情報収集についてポイントを知りたい
  • 院外手続きについて確認したい
  • 宗教上の注意点など、その他のトラブルについて知りたい

ワンストップ窓口は事前登録なしで利用でき、問い合わせ先などの概要は以下の画像のとおりです。


引用:医療機関における外国人対応に資する夜間・休日対応ワンストップ窓口について【医療機関様向け】 | 海外での危機管理や緊急医療対応を支援【EAJ】

上記の画像の窓口・問い合わせ先については変更される場合があるため、最新情報については公式サイトでご確認ください。

■公式サイト
医療機関における外国人対応に資する夜間・休日対応ワンストップ窓口について【医療機関様向け】 | 海外での危機管理や緊急医療対応を支援【EAJ】

また、本サービスへの問い合わせ事例として、以下の2つをご紹介します。

  • 問い合わせ事例(1):治療費に納得しない外国人患者への対応
  • 問い合わせ事例(2):電話医療通訳に関する相談

問い合わせ事例(1):治療費に納得しない外国人患者への対応

訪日外国人旅行客が、日曜日の夜間にA病院の緊急外来で治療を受けました。しかし、夜間休日窓口では医療費を算出できず後日精算となるため、外国人患者の手持ちの1万円をデポジットとして預かりました。

翌日、医療費を算出したところ不足分があることが分かったので、聴取した連絡先に連絡しましたが応答がありません。ワンストップ窓口からは、以下のような対応策が提示されました。

  • まずは聴取した母国の住所に、不足分の金額と支払期限を明記した請求書を送付する。
  • その際に銀行名や「スイフトコード(SWEFT/BICコード・国際銀行識別コード)」などの必要事項も忘れずに伝える。
  • 今後の対策として、デボジットのルールを明確化することや、厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル(第4.0版) 」を確認すること、通訳サービスへの登録などが重要。

参考:2023年8月マンスリーレポート

問い合わせ事例(2):電話医療通訳に関する相談

B病院は今後外国人患者が来院したときのため、どのような電話医療通訳サービスが利用できるか問い合わせました。ワンストップ窓口からは、以下のような対応策が提示されました。

  • 厚生労働省の「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」の利用
  • AMDA国際医療情報センターが提供する「アムダ通訳ライン」の利用
  • 医師賠償責任保険に加入している場合に利用できる「通訳サービス」の利用

参考:2023年7月マンスリーレポート

インバウンド需要のさらなる拡大に備え、外国人患者の受け入れ体制強化を

インバウンド活性化に伴う外国人患者の増加に対応するためには、受け入れ体制の整備が欠かせません。厚生労働省の調査では、それぞれの医療機関が苦慮している現状や課題が明らかになりました。まずは、厚生労働省の「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」を利用することで言語の違いによる意思疎通の難易度が緩和されるでしょう。

また、「夜間・休日ワンストップ窓口」では、さまざまなトラブルや疑問に対する具体的な解決策を提示してもらえるため、目の前の課題だけでなく今後の対策を検討する際にも役立ちます。このようなサービスを効果的に利用することで、外国人患者を受け入れやすい体制整備が進むでしょう。

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