2023.09.07
患者誤認・取り違えは医療ミスの一つであり、重大な事故につながる恐れがあります。患者誤認・取り違えを防ぐためには、患者確認の徹底が欠かせません。その対策手段として、医療業務のデジタル化が効果的だと考えられています。
本記事では、医療安全を実現するための患者誤認・取り違えの対策ポイントについて、詳しく解説します。
目次
そもそも「患者誤認・取り違え」とは、患者を別人と勘違いして、呼び出しや処置を行ってしまう「エラー」のことです。人は特定の行動を「認知」「判断」「行動」という過程で行っていますが、そのいずれかで誤りが生じた際に患者誤認・取り違えが起きます。
単に別の患者を呼び出してしまうだけでなく、実際に治療や手術を別人に施してしまうリスクがあることが、患者誤認・取り違えが社会に衝撃を与え、重大ミスとして問題視される理由です。
患者誤認・取り違えが注目されるようになった契機として有名なのが、1999年1月に発生した医療事故です。これは「患者を取り違えて手術してしまう」という極めて重大な事故でした。本件の重要な要素として、以下のような点が挙げられています。
本件の後にも、薬剤取り違えによる消毒薬血管内誤注入(同年2月)、京大病院の薬剤取り違えによるエタノール誤吸入(2000年2月)の事故などが報道されたことで、医療安全に対する国民の意識が大きく変わりました。過去に患者誤認事故防止方策に関する検討会で討議された内容は厚生労働省のWebサイトで紹介されており、医療の安全対策推進の一助となる情報は、公益財団法人日本医療機能評価機構などのWebサイトで紹介されています。
■関連サイト
厚生労働省|報道発表資料|患者誤認事故防止方策に関する検討会報告書
■関連サイト
公益財団法人日本医療機能評価機構|医療事故情報収集等事業:報告書:分析テーマ
患者誤認・取り違えは、さまざまな場面で発生しています。例えば、患者に薬を手渡すとき「Aさんですね」と確認し、患者が「はい」と答えたものの名前は名乗らず、患者本人も名前の取り違えには気づかず実は別人だったなどです。ほかにも、患者の名字だけを確認して投薬したものの、実は同姓の別人だったという事例もあります。
こうした事例の主な原因は、患者自身に本名を名乗ってもらわなかったことです。異なる名前を呼ばれたことに患者が気づくとは限らないことや、同姓の患者がいることに配慮しないといけません。入院患者には、氏名・生年月日・性別などを記載したリストバンドを装着してもらい、患者誤認・取り違え防止を図る対策も普及しています。
患者誤認・取り違えが起きる理由として、先述したような確認不足が挙げられます。しかし、こうしたヒューマンエラーが起きやすい背景として、医療従事者の業務負荷が高いことも要因です。
現代の医療は、高度な医療機器やさまざまな職種によって支えられており、データ入力や情報共有・連携などで各スタッフが多くの業務をこなさないといけません。その中で医療従事者個々人にミスを発生させない業務遂行を求めても「精神論」や「根性論」に過ぎず、患者誤認・取り違えの本質的な防止にはつながりにくいでしょう。
そのため、病院・医療機関が組織全体で患者誤認・取り違えを防ぐ対策に取り組み、業務フローの見直しや物理的な対策を具体的に実施して、医療安全を高めることが求められます。例えば、エラーが発生しそうな業務体制の改善や、ヒューマンエラーを軽減しやすいITシステム導入などです。
患者の誤認・取り違えを防ぐためには、まず「患者確認」を徹底することが大切です。ここでは、医療機関でよくあるシーンごとに、誤認対策の基本的なポイントを改めて見ていきましょう。
患者の受付時は、受付用紙や問診票などに記録された氏名が正しいかどうか、患者もしくは付添人に確認します。会計時は、患者を氏名と受付番号で呼び、カルテや保険証と付き合わせての確認が必要です。さらに、システム画面に表示されている患者情報が、本人のものかどうかをダブルチェックすることも重要です。
問診・診察時は受付用紙や問診票とカルテを照らし合わせて、患者の氏名や生年月日が正しいかを確認してから診察を始めます。診察室へ患者を呼び入れるときは、患者にフルネームを名乗ってもらうようにして、確実に本人と相違がないか確認しましょう。
処置室や観察室で点滴や投薬を行うときは、医師と看護師による薬剤確認を徹底した上で、患者にフルネームを名乗ってもらってカルテと照らし合わせます。診察完了後に処方箋を手渡すときは、記載された氏名が相違ないか本人に確認してもらうことが重要です。
検査室では、患者の氏名や受付番号などを検査対象の容器・コップなどに記載した上で、実施前に本人確認を行います。また、トレイを利用して、複数の検体が混ざらないようにすることも大切です。検査結果が届いた際は、カルテの氏名、ID番号、検査伝票名などを確認して、本人のものか突き合わせを確実に行います。
薬剤などが処方された患者の場合は、会計時に受付番号を回収せず、そのまま持っておいてもらうことが大切です。処方薬の準備ができたら、改めて氏名と受付番号で呼び出し、本人確認を行って手渡します。
2001年、厚生労働省は患者誤認・取り違えを含む、医療安全に関する意識啓発のための「安全な医療を提供するための10の要点」を策定しました。病院・医療機関での組織的な取り組み、スタッフ同士の取り組み、スタッフ個人の取り組みなどを分かりやすい以下のような標語にして、関係者の意識啓発や対策推進を図っています。
<安全な医療を提供するための10の要点>
- 根づかせよう安全文化 みんなの努力と活かすシステム
- 安全高める患者の参加 対話が深める互いの理解
- 共有しよう 私の経験 活用しよう あなたの教訓
- 規則と手順 決めて 守って 見直して
- 部門の壁を乗り越えて 意見かわせる 職場をつくろう
- 先の危険を考えて 要点おさえて しっかり確認
- 自分自身の健康管理 医療人の第一歩
- 事故予防 技術と工夫も取り入れて
- 患者と薬を再確認 用法・用量 気をつけて
- 整えよう療養環境 つくりあげよう作業環境
引用:安全な医療を提供するための10の要点 2003年版(厚生労働省医政局 医療安全対策検討会議ヒューマンエラー部会)
病院・医療機関における患者誤認・取り違えを予防するためには、組織的な取り組みが欠かせません。ここからは、患者誤認・取り違えを防ぐための体制づくりについて大切な主のポイントを解説します。
先述したように、患者誤認・取り違えなどのヒューマンエラーは、医療従事者の過重労働が原因の一つであることが珍しくありません。
例えば、看護業務が多忙なため1名の看護師が2名の患者を移送したことで、患者の取り違えが起きることがあります。そのため、個々の医療従事者の業務負荷について改めて把握して、院内業務フローや体制の見直しが必要かを検討することが大切です。
患者誤認・取り違えの予防には患者確認の徹底が重要ですが、そのためには自院でガイドラインを策定することも重要です。ガイドライン化することで、シーンごとの患者確認の方法を院内で統一し、部門間での認識違いや属人化を回避できます。
患者確認の重要なポイントは、以下の通りです。
ガイドラインは、各病院・医療機関で自院の状況に合った実践可能なものを策定することが大切です。以下に参考サイトをいくつかご紹介します。
■参考ガイドライン
誤った患者への輸血
電子カルテ使用時の患者間違いに関連した事例
放射線検査での患者取り違え
与薬時の患者または薬剤の間違いに関連した事例
採血時、他の患者の採血管を使用した事例
患者誤認防止 5つの原則 (鳥取赤十字病院)
横浜市救急医療センター患者誤認防止マニュアル
11-17 患者誤認防止(独立行政法人国立病院機構舞鶴医療センター)
医療事故の原因の一つがスタッフ間のコミュニケーション不足です。医療行為のプロセスで医療従事者が疑問を感じた場合は、聞き直したり確認したりするなどして解決し、それまでは次のフェーズに進まないようにすることが重要です。
また、円滑なコミュニケーションができる職場環境の醸成には、組織の風通しの良さも重要になります。
患者誤認・取り違えを防ぐためには、医療現場にITシステムを導入することも大切です。デジタル化と業務効率化で医療従事者の業務負荷を軽減できます。スタッフのリソースに余裕が生まれることで、ミスを予防しやすくなるでしょう。
また、人が手作業で行うプロセスが増えるほど、ヒューマンエラーが起きやすくなります。ITシステムでは業務をコンピューターで自動化できるため、患者誤認・取り違え防止につながります。
例えば、手書きの問診票は後でデータ入力・転記する必要がありますが、文字の誤認識や誤入力などのヒューマンエラーが発生しやすいポイントです。タブレット問診票を活用してデジタルデータ化、その情報を電子カルテシステムなどと連携することで、ミスの発生を防止すると同時にスムーズな情報連携が可能になります。
医療現場でのさまざまなシーンで患者確認を徹底することで、患者誤認・取り違えを防ぎやすくなり、医療安全の実現につながります。一方で、医療従事者の過重労働が患者誤認の背景という側面もあるため、業務体制の改善や効率化などの対策も不可欠です。
WorkVisionの病院業務の効率化システム『ARTERIA』(アルテリア)は、医療従事者の業務負荷を軽減し、ヒューマンエラーの発生リスクを低減させるのに最適なITシステムです。問診票や同意書など院内文書のペーパレス化(電子化)、診療予約のオンライン化など豊富な機能を備えており、既存の業務プロセスを変えずに導入できます。この機会にぜひ導入をご検討ください。
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