2024.01.22

医療機関・病院のBCP(事業継続計画)対策の重要性と策定ポイント

医療機関・病院のBCP(事業継続計画)対策の重要性と策定ポイント

「BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)」とは、災害などの緊急事態が発生したときに、被害を最小限に抑えて事業を継続させるための取り組みです。

医療機関においても、非常時に平常どおり医療を提供し続けるために、BCP対策が欠かせません。そこで本記事では、医療機関におけるBCP対策の重要性や、具体的なプロセスを解説します。

医療機関・病院のBCP対策の重要性

医療機関におけるBCP対策の重要性について、まずは以下の4つのポイントから解説します。

  • そもそもBCPとは
  • 大規模災害が増加している
  • 災害時に予想される状況
  • BCP対策の現状

そもそもBCPとは

「BCP」とは「Business Continuity Plan:事業継続計画」の略で、その意味は「緊急時に低下する業務遂行能力を補う非常時優先業務を開始するための計画」とされています。

例えば、大地震などの自然災害や感染症のパンデミックなどが発生すると、企業の業務遂行能力は何らかのダメージや制限を受けることになるでしょう。そのようなときでも、事業活動への悪影響を最小限に抑え、可能な限り短期間で復旧させる体制・計画を整えておくための取り組みが「BCP対策」です。

BCP対策の実施は、顧客や取引先から求められるだけでなく、社会的信頼の担保としても欠かせません。特に病院などの医療機関は、地域社会における重要度が極めて高く、災害時に需要が高まる性質を持つことなどから、入念なBCP対策が求められています。

大規模災害が増加している

近年、地震・風水害・雪害など、大規模な自然災害が多発しています。内閣府が発表した「防災に関してとった措置の概況 令和5年度の防災に関する計画」によると、令和3年度で自衛隊の災害派遣が行われた「風水害・地震等」は9件でした。


引用:防災に関してとった措置の概況 令和5年度の防災に関する計画(内閣府)

2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震など、日本列島全域で大地震が頻発しています。

「日本全国、いつどこで大規模災害が発生するか分からない」といっても過言ではありません。BCP対策を疎かにしていると、このような災害の発生時の事業継続が困難になるでしょう。

災害時に医療機関・病院で予想される状況

大規模災害が発生したとき、病院などの医療機関では、主に以下の6つのような事態に陥るおそれがあります。

  • 指揮命令系統の混乱
  • 建物の損壊による機能制限や行動制限
  • ライフライン断絶による機能停止
  • 人員や医療資器材の不足
  • 帰宅困難者の大量発生
  • 通信手段の断絶

災害発生時は、情報が錯綜するものです。担当者ごとの役割分担が不明瞭な場合は、全体の統制がとれず混乱が生じやすくなります。建物の損壊やライフラインの断絶で設備の使用制限や、交通手段の停止などで必要な人員や医療資器材の不足が生じることもあるでしょう。

一方で、医療機関の場合、災害によって怪我を負う事例が多数発生することが予想され、平時よりも医療需要が高まる可能性があります。「患者は増えているのに、必要な医療を提供できない」という事態を防ぐためにも、医療現場におけるBCP対策が重要視されています。

医療機関・病院のBCP対策は進んでいない

医療機関におけるBCP対策は思うように進んではいません。2019年に厚生労働省が公表した「病院の業務継続計画(BCP)の策定状況について」によると、一般的な医療機関におけるBCP策定率は、2割~3割にとどまっています。


引用:病院の業務継続計画(BCP)の策定状況について(厚生労働省)

2016年に発生した熊本地震では、多数の医療機関が一度に被災し、医療活動における課題が浮き彫りになりました。政府は、多くの病院がBCP対策に苦慮している現状を鑑みて、災害拠点病院のさらなる整備推進と、同病院に対するBCP対策の義務付けを発表しています。

上表にあるとおり、2018年12月時点での災害拠点病院におけるBCP対策策定率は7割程度ですが、2023年11月時点では100%を達成しています。しかし、小規模総合病院や単科・機能別病院、個人医院やクリニックでは、まだまだ追いついていないのが現状です。

医療機関・病院のBCPで意識すべきポイント

民間企業と医療機関のBCP対策は、「緊急時における事業継続・復旧を可能とするための計画」という点では同じです。

しかし、医療機関という性質上、民間企業が必要とする対策とは異なる部分も多く、より高度な対応を求められることから、BCPではなく「MCP(Medical Continuity Plan:医療継続計画)」と呼ばれることもあります。

医療機関のBCP・MCP対策では、以下の6つのポイントを意識することが重要になります。

  • 新たな医療需要に対応する
  • インフラ対策を徹底する
  • 非常用ライフラインを整備する
  • スタッフ召集のためのルールを作る
  • 非常時指揮命令系統を確立する
  • 非常時の業務優先順位を立てる

新たな医療需要に対応する

医療機関におけるBCPでは、平時と同等の医療提供能力を維持するだけでは、非常事態の発生時に対応しきれない可能性があります。例えば、災害発生時は多数の人が怪我などで医療を必要とするため、医療需要が平時を上回る可能性が高いでしょう。

実際に新型コロナウイルスの流行時には、医療のひっ迫が社会問題となりました。そのため、医療機関のBCP対策には「維持」を超えた「急増に対応できる体制」の構築が必要です。

インフラ対策を徹底する

医療機関におけるインフラ対策は、項目は一般的ですが重要度が大きく異なります。

  • 建物の耐震性を強化する
  • ライフラインを確保する
  • 非常時の通信手段を確保する

医療機関では、医療機器用の「電力」を確保することが特に重要です。例えば、東日本大震災の発生時は、計画停電の影響で人工心肺などの電源確保が問題になりました。近年では電子カルテも普及しており、停電下では患者情報の把握も難しくなるおそれがあります。非常用電源などを十分に確保しておきましょう。

非常用ライフラインを整備する

インフラ対策を行うときは、地域のライフライン復旧予測情報をもとに、必要な非常用電源設備を確保しましょう。例えば、地域の電力が3日で復旧する見込みであれば、最低でも3日間使用可能な電源設備を用意しておく必要があるということです。ライフラインの復旧見込みについては、各自治体にご確認ください。

スタッフ招集のためのルールを作る

緊急時に医療スタッフが不足しないように、招集のためのルール作りも必要です。電力や医療資器材が足りていても、スタッフがいなければ動かすことができません。安否確認システムの充実や緊急連絡先の把握も必須ですが、災害発生時は通信網が機能不全になる可能性も高いでしょう。各自で出勤判断ができるようなルール作りも大切です。

非常時指揮命令系統を確立する

非常時は現場が混乱するため、平時よりも「指揮命令系統」の重要性が高まります。災害発生状況によっては、全スタッフが集まるとは限らず、各部門のリーダーなどの指導者を欠くこともあるでしょう。

あらかじめ、段階に応じた指揮命令系統の整備や適切なサポートを行うために業務を標準化したマニュアル作成をしておくことで、非常時でも臨機応変に対応しやすくなります。

非常時の業務優先順位をつける

災害時には平時より医療需要が増える一方で、人員も資源も制限されるため、タスクの取捨選択や優先順位づけが重要です。必要な医療提供を確実に行えるように、リソースを効果的に投入できる方法を考えておきましょう。

例えば、書類作成など必要性の低いタスクは後回しでかまいませんが、最低限の情報共有は必要です。普段の業務を洗い出して優先順位や簡略化ルールを決めておくなど、平時の備えが活かされます。

医療機関・病院のBCPのプロセス

医療機関のBCP対策を検討する際は、以下のようなステップで進めるのがポイントです。

ステップ1:体制を構築する
ステップ2:現状を確認する
ステップ3:分析と検討を行う
ステップ4:戦略や計画を文書化する
ステップ5:継続的な改善を続ける

ステップ1:体制を構築する

まずは、災害時の優先業務を行うメンバーを中心にBCP対策についての推進体制を構築します。このとき診療・事務部門だけではなく、医療機関全体を巻き込み、すべての部門で当事者意識を醸成できることが理想です。

ステップ2:現状を確認する

次に、自院の役割を確認し、現状を把握しましょう。自治体によっても異なりますが、一般的に医療機関には、以下のような役割が割り当てられています。

災害拠点病院 主に重症者の治療を行う
災害拠点連携病院 主に中等症者または容態が回復した重傷者を治療する
災害医療支援病院 慢性疾患への対応や医療救護活動を行う

非常時は上記のような役割を果たすために、BCP対策を行うことが大切です。また、自院の建物・電気・通信設備などを確認し、災害時にどの部分にリスクがあるかを把握しておく必要があります。

ステップ3:分析と検討を行う

自院の「ロケーションリスク」の把握も重要です。例えば、地盤や立地条件に応じた地震発生時の想定震度や、洪水時の浸水地域などをハザードマップなどを参考に調査しておきます。

また、「ボトルネック資源」のうち、被災の影響を受けやすいものを見極め、対策を講じておくことも大切です。冷静な分析と検討が、自然災害全般に対応しやすいBCP対策につながるでしょう。

ステップ4:戦略や計画を文書化する

「想定外の事態」が起きる可能性をできるだけ多くつぶしておくことが、効果的なリスクマネジメントです。災害で起こり得るさまざまな被害を想定し、段階的に対応する戦略や計画を立てることがポイントと言えます。

具体的な戦略例として、以下のようなものが考えられます。

【レベル1】自院に被害なし 安全確認後に通常どおりの診療業務に戻る
【レベル2】一部ライフラインが停止して通常業務ができない 当面は診療を中止し、入院患者のバイタルサイン維持や、可能な範囲での専門医療を継続する
【レベル3】自院の倒壊・火災・水没などで使用不可 入院患者の他院への搬送や避難を行う

ステップ1からの体制構築や現状確認、分析や検討などを踏まえて、基本方針、戦略、行動計画、事前対策などを策定します。また、文書化することで周知やノウハウの可視化も行えます。

ステップ5:継続的な改善を続ける

BCPは「策定したら終わり」ではありません。PCDAサイクルを計画的に回して、BCP対策の強化に努めることが大切です。

また、BCPは一部の担当者だけではなく医療機関全体で行わなければ効果がありません。職員への周知や教育を通じてBCPへの意識を高めておくことも必要となります。

医療機関・病院におけるBCP対策の課題

医療機関におけるBCP対策を進めようとしたときに直面する課題として、以下の3つが挙げられます。

  • リソースの負担が大きい
  • 意識改革が求められている
  • 電子カルテへの影響が大きい

リソースの負担が大きい

中小規模病院や地域の医院でBCP対策が進まない要因のひとつとして、「負担の重さ」があるでしょう。まず、各部門のリーダーを招集して現在の業務の洗い出しや施設の確認、ボトルネック資源の把握などを行わなければなりません。

また、現状確認・分析・戦略策定のためのミーティングも増え、さらに時間的な負担が生じるでしょう。さらには、BCP実行のための設備投資や備品購入などの経済的負担がかかります。

意識改革が求められている

災害時は、医療提供能力が低下しながら医療需要は増えるという事態が予想されます。災害拠点病院ではより緊急度の高い患者に対応するため、軽症患者については小規模病院や一般外来の医院やクリニックが受け皿になることが理想です。

しかし、すべての医療機関がリソース的負担の許容や多額の投資をしてまでBCP対策を行おうという意識を持てるかといえば、ハードルが高いと言わざるを得ません。一般の医療機関が非常時の体制を整えることで、医療需要の高まりに対応し、災害拠点病院をサポートして地域住民に貢献できます。そのためには、乗り越えなければならない課題のひとつです。

電子カルテへの影響が大きい

近年では、電子カルテを利用する医療機関が増えています。自院にサーバーを設置管理する「オンプレミス型」は、災害時に通信が途絶えても院内ならば使用できるという利点があります。しかし、災害時の損壊や浸水によるデータ消失リスクがある点や、避難所などの院外では使用できない点がデメリットです。

一方、「クラウド型」の電子カルテならば、インターネット環境下であれば院内外問わず利用でき、自院が倒壊してもサーバーは別の場所にあるためデータが失われません。通信環境が途絶えると使えなくなりますが、通信復旧後は使用可能です。

医療機関で行う長期的観点のBCP対策には、クラウド型の利用が有利でしょう。

医療機関・病院のBCP対策にITシステム導入がおすすめ

医療機関が災害時でも診療を継続できる体制を整えるために、適切なBCP対策が欠かせません。非常用電源などのライフラインを確保し、指揮命令系統を構築するなど、十分な分析と検討を経て、戦略・計画を策定する必要があります。

また、周知を徹底して医療機関全体で当事者意識を持つようにすることや、効果的なBCP対策には、クラウド型の医療システム導入などのデジタル化も有効です。

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