2024.01.22

医療機関の経営指標「病床稼働率」「病床利用率」とは?計算式を解説

医療機関の経営指標「病床稼働率」「病床利用率」とは?計算式を解説

医療機関の経営には「経営指標」の把握が大切です。その中でも「平均在院日数」「病床利用率」「病床稼働率」の3つは、自院の経営改善のために特に重要な経営指標です。

そこで本記事では、これらの経営指標が具体的に何を指し、どのくらいの数値を目指すべきかなどを解説します。

医療機関の「経営指標」とは?

どのような企業や組織でも、健全な経営を進めるために目指すべき指標があり、これを「経営指標」と呼びます。例えば、一般的な企業では、売上高や生産個数など業種や業態に応じた収益を示すものが、代表的な経営指標です。

こうした経営指標は、企業の経営方針を定めるためのいわば「羅針盤」だといえるでしょう。経営指標を理解した上で、経営状況を正確に把握していなければ、企業を正しい方向性に導くことはできません。医療機関も運営には収益が必要なため、こうした経営指標を意識することが大切です。

医療機関の経営指標の分類

医療機関の経営指標は、収益やコストに関する「会計指標」と、それ以外の「非会計指標」に大別されます。会計指標と非会計指標には、それぞれ以下のようなものが該当します。

会計指標 ・医業収益
・医業費用 など
非会計指標 ・患者数
・平均在院日数 など

また、医療機関の経営指標は「機能性」「収益性」「安全性」といった、3つの観点で分類することも可能です。医療機関の規模によって異なりますが、代表的な項目には以下のようなものが挙げられます。

機能性 ・平均在院日数
・紹介率
・日当点
・外来/入院比 など
収益性 ・病床利用率
・経常収益率
・固定比率
・医業収益比率
・医業経費比率 など
安全性 ・自己資本比率
・借入金比率 など

上記の経営指標はそれぞれ性格が違うため、経営目的や課題に応じて使い分けることが大切です。

医療機関で特に重要な経営指標と計算方法

前述したように、医療機関における経営指標にはさまざまなものがあります。特に、ここで取り上げる3つは、医療機関の状況をダイレクトに反映する重要な経営指標です。その特徴や算出方法を理解しておきましょう。

  • 平均在院日数
  • 病床稼働率
  • 病床利用率

平均在院日数

「平均在院日数」は、患者が自院に入院してから退院するまで、平均してどのくらいの日数がかかっているかを示す経営指標です。平均在院日数は、基本的に以下の計算式で求められます。

平均在院日数(日)=年間在院患者延数 ÷{(年間新入院患者数+年間退院患者数)÷2}

経営状況としては、平均在院日数が短いほうが優秀だと判断されます。ベッドの回転率が高いと対応できる患者数が増え、入院収益の増加を見込めるからです。

ただし、診療科の性質や患者の重症度によって入院期間は大きく変わります。早期退院が予後に悪影響を与える可能性があるため、単に在院日数を短くすればよいというものでもありません。後述するクリニカルパスの活用も視野に入れ、診療結果とのバランスを見ながら短縮に努める必要があるでしょう。

以前は、日帰り手術を入院として計上していたため、平均在院日数の短縮をコントロールすることができました。しかし、診療報酬の改定により、現在は平均在院日数の計算対象から除外されています。

病床稼働率

医療機関の代表的な経営指標のひとつが「病床稼働率」です。これは自院の使用可能な病床数のうち、入院患者数はどのくらいの割合なのかを示しており、「稼働病床数比率」とも呼ばれています。

年単位の病床稼働率を算出する場合の計算式は以下のとおりです。

病床稼働率(%)=(年間在院患者延数+年間退院患者延数)÷(運用病床数×365)×100

病床稼働率は、高いほど病床を効率的に運用しているということを表しています。

また、病床稼働率は、24時時点の在院患者数に当日の入退院患者数を加算したものです。そのため、同日に入退院がある病床を使用した患者数は「2名」となり、タイミングによっては病床稼働率が100%を超えることがあります。

病床利用率

「病床利用率」もトータルベッド数に対する入院患者の割合を示す経営指標です。厚生労働省が公的医療機関の経営状況を見る際には、こちらの指標が参照されています。

年単位の病床利用率の計算式は、下記のとおりです。

病床利用率(%)=年間在院患者延数÷(運用病床数×365)×100

病床利用率は、24時時点の在院患者数のみを計上します。そのため、病床稼働率と病床利用率が示す数値は、下図のように大きく乖離することも珍しくありません。


引用:病床機能報告の見直しについて(厚生労働省)

厚生労働省が平成30年度に発表した「病床機能報告の見直しについて 」では、ほぼ100%であること、「許可病床数」と近似することを理由に、病床機能報告から「稼働病床比率(病床稼働率)」を省くことが提言されました。そのため現在では、病床の運用を示す主な経営指標には「病床利用率」が使われています。

平均的な医療機関の経営指標は?

医療機関が意識すべき経営指標について解説しましたが、全国の病院の平均的な数値はどのくらいなのでしょうか。

厚生労働省が公表している各種資料をもとに、以下の3つの経営指標の平均値をご紹介します。ぜひ自院の数値と比較して経営改善にお役立てください。

  • 平均在院日数は「27.3日」
  • 病床稼働率は「97.4%」
  • 病床利用率は「75.3%」

平均在院日数は「27.3日」

厚生労働省の「令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 」によると、平均在院日数の全国平均は「27.3日」です。ただし、下記のとおり、診療科によって数値はまったく異なります。一般病床に限って算出した平均在院日数は、「16.2日」です。

精神病床 276.7日
感染症病床 10.5日
結核病床 44.5日
療養病床 126.5日
一般病床 16.2日
介護療養病床 307.8日
全病床 27.3日

病床稼働率は「97.4%」

厚生労働省の「病床機能報告の見直しについて 」によると、平成30年度時点での「病床稼働率」の平均値は97.4%となっています。


引用:病床機能報告の見直しについて(厚生労働省)

ただし、前述したように、病床稼働率はタイミングによって病床利用率とのギャップが大きくなり、判断が難しい指標です。そのため、自院の経営判断には病床利用率を参照し、病床稼働率は参考程度にとどめるほうがよいでしょう。

病床利用率は「75.3%」

令和4(2022)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況 」では、病床利用率の全国的な平均値は「75.3%」となっています。ただし、診療科によって差が大きく、一般病床に絞り込んだ場合の平均病床利用率は「69.0%」です。

精神病床 82.3%
感染症病床 571.2%
結核病床 27.4%
療養病床 84.7%
一般病床 69.0%
介護療養病床 80.4%
全病床 75.3%

感染症病床の利用率が100%を大幅に上回っていますが、これは緊急対応として一般病床に在院する患者も「感染症病床の在院患者数」に含むことによるものです。集計期間中に流行していた新型コロナウイルス感染症が影響していると考えられます。

これらのデータを踏まえ、一般病床の場合は病床利用率が70%を上回っていると、平均的な経営状況だと判断できるでしょう。

病院の経営指標を改善する方法・ポイント

病院の経営指標改善には、以下の4つがポイントとなります。

  • 平均在院日数を引き延ばすべきではない
  • クリニカルパスや医療機器の更新を行う
  • ベッドコントロールを改善する
  • 「電子カルテ」などの活用が効果的

平均在院日数を引き延ばすべきではない

患者を退院させず常に満床の状態にすれば、病床利用率は高くなりますが、平均在院日数が長くなってしまいます。平均在院日数が長いと「入院基本料」や「DPC(包括評価方式)」の係数に影響が出て、収益減少につながります。そのため、平均在院日数を短縮しつつ、病床利用率を高めることが大切です。

クリニカルパスや医療機器の更新を行う

平均在院日数を短くするためには「クリニカルパス」の導入が効果的です。クリニカルパスとは、入院から退院までの治療・検査のスケジュールを時間軸に沿って視覚化した計画表のことです。ケアプロセスの標準化によりインフォームドコンセントの助力となり、チーム医療がスムーズに進む効果も期待できます。

また、新しい医療技術の導入や医療機器、ITシステムの導入も平均在院日数の短縮につながるでしょう。

ベッドコントロールを改善する

病床利用率・病床稼働率を高めるためには、「ベッドコントロール」の改善が重要です。ベッドコントロールとは、各部門が連携し入退院情報を把握することで、病床を効率的に運用する管理・調整を指します。ベッドコントロールが適切でなければ、入院させるべき患者を入院させられず、結果的に病床利用率・病床稼働率が低下します。

また、重症度の低い患者を増やすと平均在院日数は短くなりますが、単価が低く収益につながりません。いずれの場合でも、平均在院日数の短縮と合わせて、新入院患者を効率よく受け入れるための取り組みも必要です。

「電子カルテ」などのIT活用が効果的

ベッドコントロールを適切に行うためには、各病棟のベッドの状況をリアルタイムに把握する必要があります。そこで役立つのが「電子カルテ」などの医療システムです。診療情報だけでなくベッドの状況もシステムで一元管理することで、空床状況を把握しやすくなり、病床利用率の向上につながります。

また、医療システムの導入はクリニカルパスの推進にもつながり、医療の質向上や平均在院日数の短縮にも寄与するでしょう。

医療機関の経営指標の改善に「医療システム」導入がおすすめ

医療機関の経営を健全化するためには、「平均在院日数」「病床利用率」「病床稼働率」などの経営指標を改善することが大切です。

クリニカルパスや新たな医療機器、電子カルテなどの医療システムの導入は、単純な業務効率化にとどまらず、チーム医療の連携力向上や提供できる医療の質向上につながります。その結果、平均在院日数を短縮しながら、病床利用率・病床稼働率を高めることができるでしょう。

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