2024.01.22
患者が日常的に医療を受けるためには、「かかりつけ医」が必須です。しかし、医師個人の「かかりつけ医機能」には限界があるため、医療機関が持つかかりつけ医機能が注目されています。
2025年4月、患者に柔軟な医療情報を提供することを目的とした「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」が施行されます。そこで本記事では、具体的な整備内容や、医療機関にどのような影響があるのか、制度が整備されることによる効果などについて解説します。
※なお、ここでご紹介する情報は2023年12月時点の公表資料に基づいており、施策の推進に合わせて内容が変わる可能性がありますのでご了承ください。
目次
はじめに、厚生労働省が発表した資料「かかりつけ医機能について」を参考に、「かかりつけ医」と「かかりつけ医機能」の定義について解説します。
「かかりつけ医」とは、医療や健康に関する不安や悩みを何でも相談できる医師のことです。かかりつけ医は最新の医療情報を熟知しており、必要に応じて専門医や専門医療機関を紹介できることもポイントです。
また、地域医療・保健・福祉を担うための総合的な能力を有することも、かかりつけ医の定義とされています。
「かかりつけ医機能」とは、かかりつけ医の役割を示すためのものです。
厚生労働省の資料「かかりつけ医機能について」では、『「医療提供体制のあり方」日本医師会・四病院団体協議会合同提言(平成25年8月8日)』で示された、以下のような「かかりつけ医機能」の定義を紹介しています。
- かかりつけ医は、日常行う診療においては、患者の生活背景を把握し、適切な診療及び保健指導を行い、自己の専門性を超えて診療や指導を行えない場合には、地域の医師、医療機関等と協力して解決策を提供する。
- かかりつけ医は、自己の診療時間外も患者にとって最善の医療が継続されるよう、地域の医師、医療機関等と必要な情報を共有し、お互いに協力して休日や夜間も患者に対応できる体制を構築する。
- かかりつけ医は、日常行う診療のほかに、地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の地域における医療を取り巻く社会的活動、行政活動に積極的に参加するとともに保健・介護・福祉関係者との連携を行う。また、地域の高齢者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進する。
- 患者や家族に対して、医療に関する適切かつわかりやすい情報の提供を行う。
かかりつけ医は、患者に寄り添った適切な医療を提供するための存在であり、患者からの信頼や期待も大きなものとなっています。しかし、医師個人の能力がおよぶ範囲には限界があるため、医師のかかりつけ医機能は万能とはいえません。
そこで注目されているのが、医師個人ではなく「医療機関が持つかかりつけ医機能」です。医療機関がかかりつけ医機能を持つことで、柔軟な医療や情報をよりスムーズに患者に提供できるようになると考えられています。
厚生労働省は、2023年の医療法改正(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)において、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」を2025年4月に施行することを決定しました。
これは「全世代対応型の持続可能な社会保障制度」を構築するためのものです。「かかりつけ医機能」について国民への情報提供強化や、「かかりつけ医機能の報告」に基づいて医療・介護のサービスを向上させることが目的です。
「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」では、以下の2つが特に重要なポイントになります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
参考:全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律(令和5年法律第31号)の成立について[厚生労働省]
かかりつけ医機能が発揮される制度整備について(厚生労働省)
「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」の発足に伴い、2025年4月に「かかりつけ医機能報告」が創設されます。これは、慢性疾患を有する高齢者や、継続的な医療提供を必要とする患者を支えるための制度です。
以下の5つの自院のかかりつけ医機能の有無について、都道府県知事への報告を求めるものとしています。
都道府県知事は、報告した医療機関が上記のかかりつけ医機能を有することを確認し、外来医療に関する関係者と協議した上で、情報を公表します。
かかりつけ医機能報告の対象となるのは、地域におけるかかりつけ医機能を確保するために必要な病院または診療所として、厚生労働省令で定められた医療機関です。詳細については、有識者などを交えて検討される予定となっています。
医療機関側が行うべきことは、自院が前述したかかりつけ医機能を確保しているかどうかを都道府県側に報告することです。その情報は、医療関係者や医療保険者などが参加する外来医療に関する地域の協議の場において報告・公表されます。
また、都道府県知事の認定を受けた医療機関には、継続的な医療を必要とする患者やその家族からの求めに応じて、以下の点についての適切な説明を行う努力義務が生じます。
引用:かかりつけ医機能が発揮される制度整備の施行に向けた検討について(厚生労働省)
かかりつけ医機能が発揮される制度整備を実現するために、「医療機能情報提供制度」も刷新されます。これは患者による医療機関の適切な選択を支援するため、医療機関が有する医療機能に関する情報を都道府県知事に報告することを義務づけるものです。
そのため、以下の2点が大きく見直されます。
「医療機能情報提供制度の全国統一的な情報提供システム(医療情報ネット)」は、患者が適切な医療機関を選択できるよう、医療機関の情報を集約するものです。厚生労働省では、都道府県の枠を超えた検索を可能とするため、全国の医療機関などの情報を一元化・標準化した「全国統一システム」の構築を検討しています。
医療機能情報提供制度(医療情報ネット)については、以下の厚生労働省のページなどで一般向けにも公表されています。
■関連サイト
医療機能情報提供制度(医療情報ネット)について |厚生労働省
また、これまでの情報提供項目も見直され、診療科目・診療日・診療時間といった基本情報に加えて、以下のような患者目線で分かりやすい項目に変わります。
これらの改定により、患者が必要な情報を得やすくなり、医療機関の適切な選択につながることが期待されます。
「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」は、患者のみならず医療機関側にも大きなメリットがあります。
例えば、以下のような効果が期待されています。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
高齢者や日常的に医療を必要とする患者は、「住んでいる地域で医療を受け続けられるか」「現在の医療機関で将来も診療してもらえるか」という不安を抱えています。日常生活で不便な点を抱えている患者の場合は、こうした不安は特に大きいでしょう。
「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」により、必要な情報が分かりやすく患者に伝わるため、患者が「かかりつけ医・かかりつけ医療機関」を選ぶための判断材料が増えます。患者の不安を解消すると同時に患者との関係強化も図れ、地域の日常的な医療が充実します。
現状では「かかりつけ医・かかりつけ医療機関」を選ぶための情報が不足しており、不便な思いをしている方も少なくありません。かかりつけ医機能報告制度により、かかりつけ医機能を有する医療機関の情報をすべての国民に提供しやすくなり、患者の安心にもつながるでしょう。
都道府県知事がかかりつけ医機能を有する医療機関の情報を公表する際は、地域の関係者との協議が行われます。その際、地域で不足しているかかりつけ医機能を充実させるために、支援や連携の強化が行われることになるでしょう。医療機関同士での連携が促進されることで、より柔軟な医療提供が期待できます。
「大病院に行かなければ必要な医療が受けられない」と考える患者は少なくありません。「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」により、幅広い選択肢を患者に提供でき、地域の病院、診療所やクリニックを選ぶ患者も増えるでしょう。その結果、大病院の医療従事者の負担軽減につながります。
「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」により、誰もが必要な医療にアクセスできる環境が整備されて、患者にとっての選択肢が増えます。その結果、自院を受診する患者が増えることも期待できます。自院の発展のためにも、かかりつけ医機能を充実させるための体制構築が必要です。
「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」や「かかりつけ医機能報告」に対応することで、患者により多くの選択肢を提供しやすくなり、自院を訪れる患者が増えることが期待できます。かかりつけ医機能報告に対応するためには、自院の情報を整理・共有するITシステムの導入が効果的です。
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