2022.12.26
政府が掲げる「医療DX令和ビジョン2030」施策は、医療現場におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、日本の医療分野における情報のあり方を抜本的に改革するためのものです。
「医療DX令和ビジョン2030」の推進による「医療のデジタル化」が実現すると、医療現場は業務を今よりも効率的に進められるようになり、患者は良質な医療サービスを受けやすくなります。医療現場・患者双方に大きなメリットがある医療DXは、これからの時代に必須といっても過言ではありません。
本記事では、「医療DX令和ビジョン2030」の概要やメリット、押さえておきたいポイントについて解説します。
目次
はじめに、「医療DX令和ビジョン2030」が立案された背景や最新動向など、施策の概要を簡単にご紹介します。
2022年6月、政府は経済財政運営の指針「骨太の方針」に、医療現場でのDXを推進するための「全国医療情報プラットフォーム」を盛り込みました。この方針は、日本の医療分野における情報のあり方を抜本的に改革するために、2022年5月に自由民主党が提言したものです。
現在、医療の現場では「デジタル化の遅れ」により、さまざまな問題が生じています。例えば、患者の治療や投薬に関する情報を医療機関と薬局とで共有できないことや、自治体が行う検診や予防接種などの情報を活用しきれていないことなどです。
また、新型コロナウイルス感染症拡大の対応をめぐる問題で、デジタル化の遅れが大きな課題として注目されるようになりました。「全国医療情報プラットフォーム」には、医療機関に電子カルテやレセプトコンピュータを導入し、デジタル化により情報共有を円滑化するという狙いがあります。
2022年9月には、厚生労働省に「厚労省推進チーム」が設置され第1回会合が開催されました。さらに10月には、岸田首相を本部長とする「医療DX推進本部」が発足し、国を挙げた医療DXの推進が本格的に始動しています。
そもそも「医療DX(Digital Transformation)」とは、医療現場のデジタル化によって、医療のあり方を変化(Transform)させることを指します。
医療現場では、保健や医療、介護のさまざまな場面で、膨大な情報を取り扱います。例えば、受診・診察・治療・処方・研究開発などです。これらの情報をデータ化し、デジタル技術で構築された医療専用のシステムやプラットフォームを通して管理・共有を図ることを目指すのが医療DXです。
医療DXを推進することにより、自治体や医療機関で情報を共有でき、国民・患者に良質な医療サービスやケアを提供できるようになります。また、医療情報の適切な活用によって、医薬品や治療法の開発を加速化できると見込まれていて、高度な医療を提供しやすくなることもポイントです。
政府が医療DXを強く推進する背景には、第一には「少子高齢化」の問題があります。国民の健康増進や良質な医療サービスを持続的に提供するためには、デジタル化によって医療分野の効率化を図り、保健・医療情報を積極的に活用していく必要があります。
また、新型コロナウイルス感染症の流行により、医療現場と自治体における情報管理や共有の問題が浮き彫りとなりました。医療DXにより迅速なデータ収集・共有ができる基盤をつくり、次の感染症危機が発生したときに迅速に対応できる体制を構築することが急務となりました。
医療DXの推進は国民にとってもメリットがあります。国民が自身の保健・医療情報にアクセスできるようになれば、自らの健康維持・増進に活用して健康寿命の延伸を図れるようになります。
このように、デジタル技術を活用して医療を効果的に提供・享受できる基盤づくりをすることで、日本の医療のあり方や国民の健康生活が、抜本的に改善されると期待されているのです。
「医療DX令和ビジョン2030」で推進される施策には、以下のような3つの骨格があります。
3つの骨格を同時並行で推し進めることで、患者・医療関係者・システムベンダーそれぞれがメリットを享受できることを目指しています。
患者にとっては、良質な診察や治療が受けられることや、自身の医療情報を活用した健康増進ができることがメリットです。医療関係者は、患者情報の共有や技術開発で、より高度な医療サービスを提供できるようになります。システムベンダーにとっては、構造改革によって、システムエンジニアの業務環境の改善や参入障壁の解消が図られることがメリットです。
以降では、それぞれの骨格について詳しく解説していきます。
※なお、ここでご紹介する情報は「医療DX令和ビジョン2030」施策が公表された当時の資料に基づいており、施策の推進に合わせて内容が変わる可能性がありますのでご了承ください。
「全国医療情報プラットフォーム」は、現在、バラバラに保存・管理されている医療関連情報を、一つに集約して保存・管理するための新しいシステムです。
マイナポータル、各医療機関、各自治体、各介護事業者などのシステムと連携することで、国民の健康づくりの促進、医療サービスの質の向上や業務効率化、医療の安全性向上、緊急時の迅速な医療提供などに活用できるとされています。
「全国医療情報プラットフォーム」創設の施策概要など、そのポイントを見ていきましょう。
出典:医療DXについて([第1回「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム資料について]より)
「社会保険診療報酬支払基金」と「国民健康保険中央会」などで構築された情報ネットワーク「オンライン資格確認等システム」は、レセプト請求や保険加入確認のためのものです。これを発展的に拡充し、レセプト・特定健診情報・予防接種・電子カルテ・電子処方箋情報などの情報を、全国的に共有・交換できる「全国医療情報プラットフォーム」が実現します。
「全国医療情報プラットフォーム」を活用し、マイナンバーカードで医療機関を受診した患者の情報を、本人の同意のもとで医師や薬剤師と共有できるようになります。迅速な情報共有により、より良質な医療の提供につながるうえに、研究開発にも活用できます。
従来は紙が基本だった同意書や承諾書など本人の署名が必要な書類を、マイナンバーカードによる「電子署名」でデジタル化します。紙の書類の作成と記入は、患者と医療従事者双方にとって負担と手間がかかります。これをデジタル化することで、患者はより医療にアクセスしやすくなり、医療従事者は業務効率を改善可能です。
全国の医療機関の情報セキュリティ対策に関して、情報共有と助言を行うための「ヘルスケアISAC(Information Sharing and Analysis Center)」を設立します。これにより、医療分野のサイバーセキュリティ対策人材の育成と、医療機関スタッフへの教育を担う「医療サイバーセキュリティ拠点」の形成が可能となります。
電子カルテを導入・運用する際、各病院の規格がバラバラではデータを効率的に共有して活用することができません。そこで、「電子カルテ情報の標準化等」施策では、電子カルテの規格標準化の整備を推進するとしています。
施策概要や、導入メリットなどのポイントについて解説します。
現在、国際的に標準となりつつある電子カルテの規格「HL7FHIR」をベースに、厚生労働省が電子カルテの規格を定めます。同時に、標準コード・マスタの推進・維持管理体制の強化を図ります。これにより、全国の自治体や医療機関において、迅速かつ効率的なデータ共有・交換の実現が可能です。
各医療機関が電子カルテで保有するデータを、治療の最適化やAIの研究など、新しい医療技術や医薬品の開発のために活用します。これにより、実際の患者データを研究・創薬に活用しやすくするのが狙いです。なお、前述した「HL7FHIR」をベースにした電子カルテの標準化は、研究や創薬への活用を前提とした規格を整備するとしています。
「診療報酬改定DX」は、診療報酬の関連作業をデジタル化によって大幅に効率化する施策です。現行システムでは、診療報酬の改定があるたびに報酬計算プログラムの変更などが発生し、作業を行うエンジニアにも大きな負担となっていました。
作業効率化を実現し、各ベンダーやエンジニア、医療機関の負担を減らすための施策概要や、導入メリットなどのポイントについて解説します。
医療機関やベンダーの負担を軽減するために、各ベンダーが共通で利用できる「共通算定モジュール」を、厚生労働省とベンダーなどが作成します。これにより、制度の変更が生じたときも当該モジュールのアップデートを行うだけでいいので、ベンダーの負担が大きく軽減されます。
例年4月に施行される診療報酬改定の施行日を後ろ倒しにして、いわゆる「作業集中月」を解消します。これにより、モジュール作業の後戻りやヒューマンエラーを防ぎ、より効果的・効率的な医療業務を遂行できる体制を構築できます。
医療DXには「全国医療情報プラットフォーム」「電子カルテの規格標準化」「診療報酬改定DX」という3つの骨格があり、これらの施策で患者・医療関係者・システムベンダーそれぞれがメリットを享受できます。
特に、医療関係者が業務効率化を実現できることや、医療関連情報をスムーズに連携できること、そして、国民・患者が良質な医療サービスにアクセスしやすくなることは、日本の医療や健康のあり方を大きく変えるものと言えます。
今後も、国を挙げて推し進められる「医療DX令和ビジョン2030」の動向に注目が集まると予想されるとともに、医療機関は新しい医療DX時代への対応を求められていくことでしょう。
現在、特に問題視されているのが「大病院」で医療DXが進んでいないことです。大病院の組織体質は「縦割り」で部署間の連携がとりづらく、医療システム導入の同意を得ることや業務フローの変更が難しい傾向があります。
その点、WorkVisionなら、大病院へのシステム導入の経験が豊富で、システム導入のための課題解決の方策を熟知しています。導入支援の際は、関係部署を含めたワーキングを開催し、部署間の運用フロー設計・患者導線の設計までサポート可能です。
また、病院効率化システム『ARTERIA』(アルテリア)は費用対効果が明確です。院内事務業務を90%削減という実績もあります。院内システムの導入や改善など医療DXに関心がある方はお気軽にご相談ください。
■実際にARTERIAを導入された事例について以下のページで詳しくご覧いただけます。
ARTERIA導入により月間622時間削減(池上総合病院様/384床)